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第三十話 妖の序列

Author: 文月 澪
last update Last Updated: 2025-12-16 16:00:15

 優斗が部下としての態度を示した事で、玲斗も落ち着きを取り戻した。改めて優斗を歓迎し、部屋へと招き入れる。

 部屋は十畳程の広さがあり、事務机が行儀よく並んでいた。向かい合わせで五席、計十席だ。壁際には書類棚が並び、その最奥に離れて一席。その机上には父の名が記されたプレートが乗っている。

 その横に一人の男性が立っていた。二十代半ばだろうか。律と同じくらいの背丈だが、その厚みが違う。洋画のアクション俳優のような体格に短く刈った坊主頭、迷彩のツナギに身を包んでいる。太い眉に四角い顔。こんな怪しい組織より自衛隊にいた方がしっくりくるその人物は、見た目の通り言動も格式張っていた。足は肩幅に広げ、腕は背中で組む、所謂いわゆる休めの姿勢だ。そのまま微動だにしない。

 玲斗がその青年を紹介してくれた。

「彼は僕の相棒バディ永都ながと順一郎《じゅんいちろう》。順くん。この子が僕の息子の優斗だよ。仲良くしてあげてね」

 優斗も頭を下げ挨拶をする。

「小堺優斗です。父がお世話になってます。未熟者ですが、これからよろしくお願いします」

 それに想像以上の声量が返ってきた。

「自分は永都順一郎であります! 共切の使い手である優斗殿にお会いできて光栄の至り! 共に悪しき者共より民草を守りましょうぞ!」

 怒鳴り声とも取れるその衝撃をまともに喰らった優斗を耳鳴りが襲う。目もチカチカしてふらついた。それを見た律が指差して大笑いする。

「あはははは! 順一郎さんの声凄いよね! 俺も初めて会った時は驚いたな~。でもすぐ慣れるよ!」

 そう言って背中を叩いた。

 律や玲斗とはまた違う、浮世離れの仕方だ。一昔前の軍人じみた喋り方といい、陰陽寮には変人しかいないのか。もしかしたら、その仕事内容のせいではみ出し者が集まってくるのかもしれない。しかも優斗「殿」と来た。年上の先輩にそう言われるのは心苦しい。

 優斗は控えめに後輩として扱うよう頼んでみる。上司の息子とはいえここでは若輩者なのだ。

「あの、僕に敬語はいりません。どうか呼び捨てて下さい」

 そう言うも。

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